ハヤカワ文庫 レッド・スパロー〈上〉〈下〉

By | 2020年12月30日

期待を超えることはありませんでした。スパイ小説というくくりで言うと

中の下くらいにランクされるかも知れません。作者の実体験と、 FBI と

CIA 長官が、大っ嫌いという感情が邪魔をしてしまったかも知れません。

特に終わり1/4あたりの拡げた風呂敷をたたむところで、いくつか

ツッコミどころがあって、苦笑してしまいます。そのあたりを拾って

映画の脚本にしていたら、「いつもの」ハリウッド映画になってしまって

いたところでした。しかし、この小説の光る部分を見つけて研磨し、

カットして、きちんと第一級の映画に仕立て上げたスタッフ達がスゴイなと

改めて思いました。

著者のジェイソン・マシューズが、この作品を発表したのは、2013 年ですが

物語の背景となっているのは、おそらく、2003 年前後かなと思います。

米上院議員が、ロシア側のスパイであることの容疑を決定的にする小道具として

MOが使われるのですが、その容量が 1.3 GB だったことから、だいたい、

そのあたりかなと。記憶媒体としての MO の存在期間って、とても短いので

これを使っちゃうと時期が特定できてしまうんですね。しかも、USB メモリも

登場しますから、少なくとも、2000 年以降となりますか。ところで、映画にも

(たぶん)MO が登場(まさか、フロッピーディスクじゃないだろう)しますが

同時に、スマホや、SNS も登場するので、このあたりはツッコミどころかも

知れません。ただし、14年間も尻尾をつかまれることなく過ごしてきた

老練のエージェントが、20枚のうちの1枚の MO を自ら盗むというのは

いくら何でも、「おかしいだろう!」と叫ばずにはいられません。こういう

アメリカ人的いいかげんさが、物語の終わり1/4あたりに集中して発揮される

ため、この小説を推しがたいものにしてるんですよね。

とはいえ、映画で端折っているものが何なのかを明らかにさせる資料としては、

貴重でしたし、ドミニカのお母さんがバイオリンを娘に聞かせながら、

「何が何でも生きるのよ」と語るシーンなど、原作を読んで得したなという

部分も多くありました。このシーンだけは、映画でも使ってもらえていたらなと

思いましたもん。各章末に料理レシピを掲載するという著者の小さな親切は、

ハッキリ言って、Microsoft  的な大きなお世話でした。

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