2015年4月4日未明、伊藤詩織さんは下腹部の痛みで意識が戻りました。
全裸にされ彼女の身体の上で山口敬之が腰を動かしており、やっとの思いで
ハネ退けたら避妊具無しの陰茎が見えました。
この悪夢のような出来事から10年近く経った今も伊藤詩織さんは闘い続けて
います。山口敬之への復讐といった小さいことじゃありません。性被害に遭った
女性が声をあげることができる社会にするための闘いです。
2017年に強姦罪から「強制性交等罪」、準強姦罪から「準強制性交等罪」に
変更され、さまざまな議論の末に2023年7月23日ついに不同意性交等罪が
施行されました。むろん、伊藤詩織さんだけの尽力が実ったというわけでは
ありませんが、彼女の闘いなくして、この日を迎えることはできなかった
はずです。2023年の改正により、「膣または肛門に身体の一部または物を
挿入する行為」も性交と同じ扱いになりました。従って電車内の痴漢行為などで
相手の膣に指を入れた場合も強制性交の罪になり、5年以上の懲役となります。
女性が男性に、男性が男性、女性が女性に性被害を与えても処罰されるように
なりました。その他年齢要件も変更になりました。
夫婦間であっても、強制性交等の罪が成立することが明文化されました。
映画では、かなりの部分を伊藤詩織さんが英語で語ります。日本語の字幕が
ないため、この部分について私は正確に理解することはできませんが、彼女の肉声で
語られることの重要性、語るときの彼女の表情を見ることができたことでの説得性は
映画を見なければ感じることができないはずです。
北原みのり氏が、西廣弁護士の会見から引用して名前を出し証言することに承諾を
得られなかったタクシー運転手の映像が使われていること、 情報提供した刑事の秘匿が
守られていないこと、西廣弁護士との会話が無断で録音され使用されていることなどを
「大きな正義の前に、圧倒的な大きな正義の前に、小さな恐怖や不安や個人の尊厳を
打ち消すことは許されるのだろうか」と伊藤詩織さんを批判しました。
そのこと自体は間違っていないとは思うのだけれど、伊藤詩織さんと敵対した勢力は
どこにその正義を顕わしたのか。いわば、格闘技の何の知識もトレーニングも受けて
いない女性が公権力をバックに圧倒的な力で攻撃してくるレスラーとリング上で10年近く
闘ってきたのです。杉田水脈衆議院議員や漫画家・はすみとしこ等の名誉毀損や
『月刊Hanada』の花田紀凱編集長によるネット番組での花田と山口の会話など
セカンドレイプを平然と行う輩と闘っているときに彼らに何の正義があったというのか。
Twitter上で誹謗中傷してきた多くの者たちに何の理性と正義があったというのか。
どうか、Black Box Diaries(2024)が第97回アカデミー賞を受賞されんことを
心から祈ってやみません。