サーミの血よりも、さらに過酷な状況に置かれた未成年の男女を
描いた映画です。この映画は、冒頭に
というテロップが流れ、「セリフ」はすべて手話のみ。それは聾啞者の方が
字幕なしの外国映画を観ているようなものかも知れませんが、字幕なしを前提に
作られた映画なのでディテールはわからないまでも物語の流れはわかるように
なっています。
サーミの血は主に 90年くらい前のスウェーデンを舞台にした映画でしたが
この映画は、舞台となったウクライナの聾学校だけではなく、程度の差こそあれ
現在も全世界に存在する普遍的な閉塞的な状況下の若い男女の物語であり
それだけに解決の光が見えない絶望感を抱えてしまいます。
こんな底辺の物語など、我が身には関係ないと多くの日本人は思うのでしょうが
今現在においても「これは俺たちの話だ」という人が日本国内にも一定数存在します。
この映画は多くの日本人がそういう彼らの存在を「別世界の話」と思っていることへの
警鐘であり、さらに、世界には「世界で最も女が殺されている国」と呼ばれる
エルサルバドル、失業と人身売買に苦しみ続けるベネズエラ、繰り返し起こる
内戦状態から長年抜け出せないでいるイエメンなど多くの国民が貧困と殺人や
レイプなどの犯罪に苦しんでいる「別世界」ではない国が多く存在しているのに
私も含めて普段はその事実に目を向けることさえなく暮らしています。
なぜ、彼女たちは簡単に売春婦となるのか。レイプされ殺されないためには
犯罪組織の一員になるしかなく、若い女性が一員になるためには売春をするしか
なかったからという単純な図式が見えないと、この映画は「聾啞者だから」ではなく
「聾啞者も」という話なのだということが見えないということになります。
命懸けで女を愛するとき、懸ける命は自分の命だけではなく、愛する者や自分の
命を脅かす者の命をも含むことがラストに明かされるのですが、耳が聞こえない
ために背後から近づく危険や就寝中にまさに隣で起こっている危険から自分の身を
守れないという恐怖も繰り返し描かれます。
字幕が存在しない映画ですから、オリジナルを入手する手段を持っている方は
修正だらけの日本版での鑑賞はオススメしません。一ヶ所だけ男性器がチラリと
映ってはいますが露骨な性表現はありませんし、クローズアップもしないので
安心して下さい。
男性器の落書きが黒板に書かれているシーンがAmazon プライムでは、どうなって
いるのかなと確認したら、ボカシなしだったので「これはいいんだ」とちょっと
感心?しました。