昔、72歳だった僕 【0005】

By | 2024年10月8日

二度寝したようだ。

母親にドヤされて、やっと起きた。

真ん中の部屋を横切ってちょっと幅が広めの縁側のような板間に出て

洗面台の前に立つ。板間の横は鯉を飼ってるコンクリート製の池だ。

池は父親の自作。

小さめの歯ブラシが、たぶん、私の…じゃなく僕のだろうと

見当をつけて歯磨きした。ちょっとひよわな感じの僕が

鏡の中にいて目線が合った。

顔を洗ってダイニングに向かった。

今、何時だろう。今朝から時計というものをまだ見ていない。

ダイニングの壁に時計があった。10時7分。

食卓に茶碗と汁椀が置いてあった。ご飯は、保温ジャーの中に

あるのかな。味噌汁はガスレンジの上の鍋の中だろう。

そうか、まだパン食じゃなかったんだ。

とにかく朝飯を済ませて「僕の部屋」に向かう。パソコン部屋には

家族の眼がない時間帯を選んだほうがいいだろう。逃げ帰りたい

気持ちは高いけれど。

ふと学習机の上を見ると夏休みの友が置いてあった。中身を見ると

案の定、2~3ページしかやってない。毎年、新学期が迫る中、

家族総動員で何とか埋めていたような気がする。

やることもないし、取り組むことにした。算数や国語などの

教科のページは、あっという間にできていく。まあ、当然だろう。

昼休みをはさんで夕方までで、ほとんど埋まった。それにしても

暑い。エアコンなんてないから扇風機しか頼れない。

当時は涼しかったと記憶していたが、この日の最高温度は

33.5 ℃ だった。ただし、この頃の岡山地方気象台は

2024年現在の市街地ではなく郊外の山裾にあって自宅付近よりも

気温は低めになっていた。だから、それを考えると8月5日は

猛暑日だっただろう。なのに、窓から入る風と扇風機だけで

何とか夏休みの友に取り組むくらいはできた。きっと、若い肉体が

それを可能にするのだろう。

そろそろ夕飯と告げに来た母親が夏休みの友に取り組んでいる

僕を見て驚きの声をあげた。振り向くと少しうれしそうな表情だった。