大いに期待して鑑賞して、その期待を大きく超える映画なんて
めったに出会えるものではありません。半地下の住居と
豪壮な邸宅。その環境差が、どのように住人に影響を与えるか
な~んていう、たったひとつの設問に対する答案じゃないし、
格差社会の持つ歪みが……なんていう設問でもありません。
そういう視点で言うなら、万引き家族 (2018)という問題への
完全無欠の答案だったというなら、多少の納得があります。
ストーリーが交差点を曲がるたびに、がらりと風景が変わって
新しい物語に突入する。何度も何度も曲がり角があって、そのたびに
違う物語になっていくのだけれど、平面上を進まないので何度曲がっても
物語が交差することがありません。
からくも邸宅を脱出した父、息子、娘が自宅へと逃げ帰るシーンで
貧富の差が標高差で表現されているのはスゴイと思いました。
地下の核シェルターよりも、深い深い谷の底の、さらに半地下の住居が
豪雨で水没したとき、家の中で一番高い位置を占める便器が唯一の
避難場所。しかし、逆流した汚水が間欠的に便器からあふれ出ている……
もちろん、便器の設置場所が低い位置にあったら、排水できなくなるという
論理的な理由があろうとも、この位置に便器がある理由は、ただひとつ、
このシーンを効果的に撮るためでしょう。きっと。じゃあ、リアリティに
傷をつけかねないこのシーンは、どのような目的で撮られたのか……と
読み解いていけば、監督の意図が見えてくるはずです。残念ながら、
私には見えませんでしたけど。でも、もう一回観るときには見えるかも
知れません。
韓国映画には、ときどき、とんでもない秀作が出現しますね。例えば、
悪い男 (2001) 。トラックの幌が赤い点となって最後まで残るラストシーンが
印象的でした。また、容赦ない暴力シーンを描いたことで強く印象に
残った韓国映画もありました。タイトルは忘れましたが、両足首を深く
切られた男が川の中で立ち尽くしていて流れ出る血で川が真っ赤に染まって
いく絶望的なシーンは今でも忘れることができません。