何とか入手して読みました。愛に奉仕せよ(2022)の原作本です。
読了してみて映画は驚くほど原作に忠実に描かれていたんだなと
思いました。ノーベル文学賞候補と言われてる人の著書なので
難解なのかなと思っていたのですが、そんなことはありません。
翻訳が、ちょっと固い感じではありますが、もっと、くだけた文体なら
大衆小説にだってなりそうです。過激な性描写で発禁になったと
されてますが、控えめとは言いませんが、ことさらに欲情をかき立てる
といった表現ではありません。女性でも安心して読むことができると
思います。映画では、急に炊事兵が亭主風を吹かして「おい、ちょっと
これを洗っといてくれ」と汗びっしょりの軍服を師団長夫人に
差し出したシーンが理解できなくて不満が残りましたが、原作では
この言動に対して師団長夫人は唖然として顔を曇らせるものの従わず、
何も言わないまま指で〝人民に奉仕する〟の木札を指さしただけで
洗面所へと向かうのです。そのあとの主人公の行動と師団長夫人との
やりとりや言動の描写の合間に、なぜ、そのような言動に主人公が
至ったかの心情について触れられているのですが、このできごとの
あとの二人に生涯忘れることができない一幕をもたらすことになります。
このことを踏まえた上で映画のこの部分をもう一度観たほうが
いいかもしれないと思いました。
映画には、炊事兵と師団長夫人との初デートを描いた、私が大好きな
美しいシーンがあったのですが、原作にはありません。その代わりに、
映画では謎のままだった炊事兵が去ったあとに属していた師団が
解散に至ったことや、その経緯が描かれています。
15年後に元炊事兵が訪れた元師団長宅が立派な邸宅だったのは
省軍区司令員に出世していたためなんだというようなことも
わかります。
こうして原作を読んでみると改めて「愛に奉仕せよ」は名作だったんだなと
気づかされます。映画の背景についての解説本として読んでみるのも
オススメですよ。